・・・神の制作したものには浅はかな人間の概念的な一般化を許さないものがあるのである。 食堂やあるいは電車の中などで、隣席の人のもっているステッキの種類特にその頭部の装飾を見ると、それに現われたその持ち主の趣味がたいていネクタイとか腕時計とか他・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・それをわれわれの意識の表層だけに組み立てた浅はかな理論や、人からの入れ知恵にこだわって無理に押えつけねじ向ける必要はないように思われる。人々の頭脳の現在はその人々の過去の履歴の函数である。それである人がある時にAという本に興味を感じて次にB・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ その女の歴史の切ない必然を見ることをしない男たちは自分らの不明を反省するより浅はかな理想の幻影にエキセントリックなまでに殉じようとした彼女らをあざける。と、正当な怒りが向けられている。「麦死なず・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・弱いあきらめや、浅はかな見越しをすて真実の世界をつなぐ花の環の一環として、平和を守る世界正義の下へ日本の勤労階級の正義をも結び合わしてゆかなければならない。これこそ、今年のメーデーに期待される重大な一つの歩み出しであると信じる。〔一九四八年・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・自分の生活では、無心、女らしい可愛い浅はかさ、などと云うものが、決してあるがままでは存在し得ない有様なのだ。 僅か一時間足らずの話の間に、其等、自分にとっては、意義ある多くのことに思い当り、静かな、然し底に淋しさを持った心持で、オートバ・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・しかるに幼少のころから、他人の感情を害すまい、他人の誤解を受けまいというふうな用心によって、卒直な感情の表出を統制するように訓練されて来たとなると、右のような態度そのものが、何となく浅はかなような、奥ゆかしさを欠いたものとして感ぜられるよう・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫