・・・何度目付衆が出て、制しても、すぐまた、海嘯のように、押し返して来る。そこへ、殿中の混雑もまた、益々甚しくなり出した。これは御目付土屋長太郎が、御徒目付、火の番などを召し連れて、番所番所から勝手まで、根気よく刃傷の相手を探して歩いたが、どうし・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・「正寅の刻からでござりました、海嘯のように、どっと一時に吹出しましたに因って存じておりまする。」と源助の言つき、あたかも口上。何か、恐入っている体がある。「夜があけると、この砂煙。でも人間、雲霧を払った気持だ。そして、赤合羽の坊主の・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ 風の強さの程度は不明であるが海嘯を伴った暴風として記録に残っているものでは、貞観よりも古い天武天皇時代から宝暦四年までに十余例が挙げられている。 千年の間に二十回とか三十回といえばやはり稀有という形容詞を使っても不穏当とは云えない・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫