・・・「ソヴェトのプロレタリアートは、もう芸術の消費者ではない。生産者となった」一九三〇年の初春に行われたラップの大会は、歓喜をもってこの事実を認めた。芸術を「生産の場所へ!」というスローガンは全くこの社会的現実を基礎としたものであった。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・とくに本年度の悪質大衆課税として批難をうけながらついに国会を通過した物品取引税は、総額二七〇億円の収入を予定されていて、この取引税が時計の修繕にも靴の底なおしにも、映画や芝居をみるときにさえも消費者の負担となってくる。各取引ごとに一パーセン・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 大衆というものを、文化においても創造的能力より消費的面において見る、つまり『キング』と浪花節と講談、猥談をこのむものとしてだけ見て、しかもそういう大衆の中には種々な社会層の相異があり、その相異から生じる利害の相異もまたあるという現実を・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・労働と消費とがそれぞれに違った階級に属していること、肉体労働と精神労働とが極端に分裂していること、労働の極端な専門化、都会と農村との分裂など資本主義そのものが本質的に持っている諸矛盾が文化の上にも強力に反映して来ている。そして現在にいたって・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・国民の体位向上の問題はやかましい関心をひきおこしているのであるが、酒、煙草に対する寛大さの結果は、体位をはたして向上させるものであろうか。国民消費としてひっくるめていえば、人口には女も入って、女の酒、女の煙草も、これまで内務省や文部省が保健・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・人民生活に砂糖の消費が制限されるようになって来て、遂に全く砂糖なしになって来た頃、いろいろな栄養学者、医者たちは、あれほど口と筆との力をそろえて、砂糖が人体に及ぼす害について宣伝した。砂糖は骨格をよわくする。砂糖は血液を酸化させる。砂糖は人・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・ 第三は、良人から与えられる金を当然の権利として、彼女の意のままに消費する群、つまり流行の偶像であり、香油と白粉の権化であり、良人の虚栄の仲介者となって居る婦人達。アメリカの物質的方面を恐ろしい程体現して、自分はいくらでも、素晴らしい着・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・街頭、公園、近郊に多くとどまっており、あるいは通俗小説の場面としては落すことのできない近代スポーツの背景として北国の雪景、またはドライヴの描写としての京浜国道がとり入れられ、いずれにせよ、大部分享楽的消費的生活雰囲気との連結におかれている。・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・そこには、先ず勤労人として生活しながら、文学を愛好する面では消費的で、従来の文学青年的であるというような撞著が克服されねばならず、その過程は歴史的にいかに多岐、多難で忍耐を要することであろうか。ゴーリキイの生涯を通観してもそのことは分明なの・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・人ぐらいの若い連中――それは毎週少しずつ顔ぶれが変わるのであるから、全体としては数十人あったであろうが――そういう連中の敬愛にこたえ、それぞれに暖かい感じを与えていたということは、並み並みならぬ精力の消費であったはずである。もちろん漱石は客・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫