・・・文章は、上巻の方は、三馬、風来、全交、饗庭さんなぞがごちゃ混ぜになってる。中巻は最早日本人を離れて、西洋文を取って来た。つまり西洋文を輸入しようという考えからで、先ずドストエフスキー、ガンチャロフ等を学び、主にドストエフスキーの書方に傾いた・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・己と身の周囲の物とが一しょに織り交ぜられた事は無い。周囲の物に心を委ねて我を忘れた事は無い。果ては人と人とが物を受け取ったり、物を遣ったりしているのに、己はそれを余所に見て、唖や聾のような心でいたのだ。己はついぞ可哀らしい唇から誠の生命の酒・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・余は再び手真似を交ぜて解剖的の説明を試みた所が、女主人は突然と、ああサンゴミか、というた。それならば内の裏にもあるから行って見ろというので、余は台所のような処を通り抜けて裏まで出て見ると、一間半ばかりの苗代茱萸が累々としてなって居った。これ・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ 春風馬堤曲とは俳句やら漢詩やら何やら交ぜこぜにものしたる蕪村の長篇にして、蕪村を見るにはこよなく便となるものなり。俳句以外に蕪村の文学として見るべきものもこれのみ。蕪村の熱情を現わしたるものもこれのみ。春風馬堤曲とは支那の曲名を真似た・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・を、飾らない、主観を混ぜない筆致で短かいいくつかの話に書いてある。 新しい力が、古い根づよいものによって決められ、しかしついにはいつか新しい力が農村の旧習を修正してゆく現実の有様を描いてある。こういう本は字引がいらない。 十一月・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 縋りつくようにきかれた男は、苦笑ときの毒さとを交ぜてぼんやり答えている。「困っちゃったわ、全く。今日はじめて出たのに、こんな目に会って……」 半分啜り上げるような早口で歎く娘は、空のリュックを吊って前へうしろへ揺られているので・・・ 宮本百合子 「一刻」
・・・翌朝景一は森を斥候の中に交ぜて陣所を出だし遣り候。森は首尾よく城内に入り、幽斎公の御親書を得て、翌晩関東へ出立いたし候。この歳赤松家滅亡せられ候により、景一は森の案内にて豊前国へ参り、慶長六年御当家に召抱えられ候。元和五年御当代光尚公御誕生・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・そして誰も誰も、自分は神話と歴史とをはっきり別にして考えていながら、それをわざと擣き交ぜて子供に教えて、怪まずにいるのではあるまいか。自分は神霊の存在なんぞは少しも信仰せずに、唯俗に従って聊復爾り位の考で糊塗して遣っていて、その風俗、即ち昔・・・ 森鴎外 「かのように」
上 この武蔵野は時代物語ゆえ、まだ例はないが、その中の人物の言葉をば一種の体で書いた。この風の言葉は慶長ごろの俗語に足利ごろの俗語とを交ぜたものゆえ大概その時代には相応しているだろう。 ああ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ お霜は麦粉に茶を混ぜて安次に出した。「飯はちょっともないのやわ、こんなもんでも好けりゃ食べやいせ。」「そうかな、大きに大きに。」「塩が足らんだら云いや。」「結構結構。」 安次は茶碗からすが眼を出して口を動かした。・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫