一 島田沼南は大政治家として葬られた。清廉潔白百年稀に見る君子人として世を挙げて哀悼された。棺を蓋うて定まる批評は燦爛たる勲章よりもヨリ以上に沼南の一生の政治的功績を顕揚するに足るものがあった。 沼南には最近十四、五年間会っ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ 彼は二十歳前後には、人間は正直で、清廉であらねばならないと思っていた。が今では、そんなものは、何も役に立たないことを知っていた。正直や清廉では現在食って行くことも出来ないのを強く感じていた。けれでも彼は妻に不正をすゝめる気持にはなれな・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・軍人は清廉潔白でなければならない。ところが、その約束が、ここでは解放されているのだ。兵士は、その××に引っかかって、ほしいものが得たさに勇敢に、捨身になるのだった。「前島、その耳輪を俺によこしとけよ。」 兵士は命令を待っている間に、・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・当分の間日本の人民は、清廉潔白な内閣をもつことは困難であろうと予測している。日本の独占資本がより強力な独占資本の庇護のもとに自身の存在を維持しようとしているとき、その利益を代表する政権が、真に民主的であり得ないことは明瞭である。すべての悪質・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ゴーリキイは天成の素直さ、鋭い清廉な感受性によって、ここに生活を少しでもいい方に向けようと努力している一団の人々を発見したのであった。 然し、学生の討論や、退屈な経済学の本の講義はゴーリキイにどうしても馴染めない。まして、ゴーリキイを目・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・ ガラハートは清廉潔白な騎士であるから、森の中で、赤い着物を着た恐ろしい女に出合って、その女が智慧を貸してくれたことを告げた。巨人はさも残念そうに自分の腿をなぐった。「ああ、あの畜生、それは私の妹だ。何年か前あの女をひどい目に遭わせて追・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫