・・・ 馴れぬ風土の寒風はひとしおさすらいの身に沁み渡り、うたた脾肉の歎に耐えないのであったが、これも身から出た錆と思えば、落魄の身の誰を怨まん者もなく、南京虫と虱に悩まされ、濁酒と唐辛子を舐めずりながら、温突から温突へと放浪した。 しかし、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・二 慰問袋 壁の厚い、屋根の低い支那家屋は、内部はオンドル式になっていた。二十日間も風呂に這入らない兵士達が、高粱稈のアンペラの上に毛布を拡げ、そこで雑魚寝をした。ある夕方浜田は、四五人と一緒に、軍服をぬがずに、その毛布にご・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・その人は、冬、オンドルのある特別室にがんばって動かなかった人である。「流れる星は生きている」は、一人の女性の生存力が、小さい子供の生きぬく力とともにこのように発揮され、このような方向に煉磨されなければならなかったことは、まったく軍国主義・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
出典:青空文庫