・・・その笑顔は全くそれとして、満目美と輝きをてりかえす自然なものではあるが、阿蘭は本当はああいう風な笑顔は決して持たないのである。あの笑いの瞬間に横溢する感情表現は、阿蘭の全生涯の歴史が別に書かれて来ているのでなければ阿蘭の体と顔とに現れ得ない・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・ 今日あるものは、満目の白い十字の墓標である。幾万をもって数えられるかと思う白い墓標は、その土の下に埋った若者たちがまだ兵卒の服を着て銃を肩に笑ったり、苦しんだりしていたとき、号令に従って整列したように、白い不動の低い林となって列から列・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
今日の雑誌ジャーナリズムは、大ざっぱにだけ眺めわたすと満目悉く所謂事変ものの氾濫である。すべての雑誌の表紙は刺戟的なグラビア版で赤や黒のフラッシュのついた文字で彩られているようなのであるけれども、そうかといって単純にキング・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
時局と作家 浪漫主義者の自己暴露 九月の諸雑誌は、ほとんど満目これ北支問題である。そして、時節柄いろいろの形で特種の工夫がされているのであるが、いわゆる現地報告として、相当の蘊蓄・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫