・・・とちょっと考えて「事に由るとロスの奴、滅茶々々かも解らん。今日の電報が楽みだ。」といいつつソソクサして、「こうしちゃおられん。これから復た社へ行く、」と茶も飲まないで直ぐ飛出し、「大勝利だ、今度こそロスの息の根を留めた、下戸もシャンパン・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・宗匠頭巾をかぶって、『どうも此頃の青年はテニヲハの使用が滅茶で恐れ入りやす。』などは、げろが出そうだ。どうやら『先生』と言われるようになったのが、そんなに嬉しいのかね。八卦見だって、先生と言われています。どうやら、世の中から名士の扱いを受け・・・ 太宰治 「或る忠告」
・・・何せこの大雪で、交通機関がめちゃ滅茶なのですから、私はあれが入隊におくれた理由を、そこは何とかうまく報告できるつもりです。脱走兵を出したとあっては、この町全体の不名誉です。この町の名誉のために、一つ御苦労でもたのむ、というような事でした。・・・ 太宰治 「嘘」
・・・しくなって、私たちの住んでいるこの郊外の町に、飛行機の製作工場などがあるおかげで、家のすぐ近くにもひんぴんと爆弾が降って来て、とうとう或る夜、裏の竹藪に一弾が落ちて、そのためにお勝手とお便所と三畳間が滅茶々々になり、とても親子四人その半壊の・・・ 太宰治 「おさん」
・・・あなたもずいぶん滅茶なひとだと思いました。お葉書に書いてはございましたが、まさかと思って、少しもあてにはしていなかったのです。あなたの年代の作家たちは、へんに子供みたいに正直ですね。私は呆れて、立ち上ったら、「ひでえ部屋にいやがる。」と学生・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ご主人が南洋の島においでになった後でも、生活のほうは、奥さまのお里から充分の仕送りもあって、わりに気楽で、物静かな、謂わばお上品なくらしでございましたのに、あの、笹島先生などが見えるようになってから、滅茶苦茶になりました。 この土地は、・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・私は、そのほうの事では、男の人を、あまり信用して居りませんし、また、滅茶に疑っても居りません。そのほうの事でしたら、私は、ちっとも心配して居りませぬし、また、笑って怺える事も出来るのですけれど、他に、もっと、つらい事がございます。 私た・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・右の方の、ちょっと大きいやつだ。」滅茶々々である。 金木駅に着いた。小さい姪と、若い綺麗な娘さんとが迎えに来ていた。「あの娘さんは、誰?」と妻は小声で私にたずねた。「女中だろう? 挨拶なんか要らない。」去年の夏にも、私はこの娘さ・・・ 太宰治 「故郷」
・・・な原因は、親友の滅茶な酔い方に在るのだ。「面白くない。ひとつ歌でもやらかそうか」 と彼が言ったので私は二重に、ほっとした。 一つには、歌に依ってこの当面の気まずさが解消されるだろうという事と、もう一つは、それは私の最後のせめても・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・家庭円満、妻子と共に、おしるこ万才を叫んで、ボオドレエルの紹介文をしたためる滅茶もさることながら、また、原文で読まなければ味がわからぬと言って自身の名訳を誇って売るという矛盾も、さることながら、どだい、君たちには「詩」が、まるでわかっていな・・・ 太宰治 「如是我聞」
出典:青空文庫