・・・地震は、相変らず時々来るが、火事はまかさ来まいと思い、荷作りなどをしないでも大丈夫だと、下の婆さんに云って一先ずガード下に地震をよけて居るうちに、五時頃、段々火の手が迫って来るので、大きな荷物を四つ持ち、鎌倉河岸に避難した。始めは、材木や何・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・』 主人は、火の手が見えるか屋根へ登って見ろと云いつけた。」 ゴーリキイは屋根へ出て見たが火の手は見えぬ。静かな冷たい夜気の中で、ゆるやかに鐘が鳴っている。暗くて姿の見えない人々が雪を軋ませながら走った。橇の滑り木が鳴る。鐘は気味悪・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・「八つ時分三味線屋からことを出し火の手がちりてとんだ大火事」と云う落首があった。浜町も蠣殻町も風下で、火の手は三つに分かれて焼けて来るのを見て、神戸の内は人出も多いからと云って、九郎右衛門は蠣殻町へ飛んで帰った。 山本の内では九郎右衛門・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫