・・・ 白い火山灰層のひとところが、平らに水で剥がされて、浅い幅の広い谷のようになっていましたが、その底に二つずつ蹄の痕のある大さ五寸ばかりの足あとが、幾つか続いたりぐるっとまわったり、大きいのや小さいのや、実にめちゃくちゃについているではあ・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・あとは柔らかな火山灰と火山礫の層だ。それにあすこまでは牧場の道も立派にあるから、材料を運ぶことも造作ない。ぼくは工作隊を申請しよう。」 老技師は忙しく局へ発信をはじめました。その時足の下では、つぶやくようなかすかな音がして、観測小屋はし・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・それは昔山の方から流れて走って来て又火山灰に埋もれた五層の古い熔岩流だったのです。 崖のこっち側と向う側と昔は続いていたのでしょうがいつかの時代に裂けるか罅れるかしたのでしょう。霧のあるときは谷の底はまっ白でなんにも見えませんでした。・・・ 宮沢賢治 「谷」
・・・その細かな火山灰が正しく上層の気流に混じて地球を包囲しているな。けれどもそれだからと云って我輩のこの追跡には害にならない。もうこの足あとの終るところにあの途方もない爬虫の骨がころがってるんだ。我輩はその地点を記録する。もう一足だぞ。」大・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・噴火係の職をはがれ、その火山灰の土壌を耕す。部下みな従う。七、ノルデは頭からすっかり灰をかぶってしまった。 サンムトリの噴火。ノルデ海岸でつかれてねむる。ナスタ現わる。夢のなかでうたう。八、ノルデは野原にいくつも茶いろなトランプ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ」
・・・やがて新緑の色が深まるにつれ、だんだん黒ずんだ陰欝な色調に変わって行くが、これも火山灰でできた武蔵野の地方色だから仕方がない。樹ぶりが悪いのは成長が早すぎるせいであろう。一体東京の樹木は、京都のそれに比べると、ゲテモノの感じである。ゲテモノ・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫