・・・ 蝙蝠が居そうな鼻の穴に、煙は残って、火皿に白くなった吸殻を、ふっふっと、爺は掌の皺に吹落し、眉をしかめて、念のために、火の気のないのを目でためて、吹落すと、葉末にかかって、ぽすぽすと消える処を、もう一つ破草履で、ぐいと踏んで、「よ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・を掻いたついでに、白金の高彫の、翼に金剛石を鏤め、目には血膸玉、嘴と爪に緑宝玉の象嵌した、白く輝く鸚鵡の釵――何某の伯爵が心を籠めた贈ものとて、人は知って、と称うるその釵を抜いて、脚を返して、喫掛けた火皿の脂を浚った。……伊達の煙管は、煙を・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ その途端に燈火はふっと消えて跡へは闇が行きわたり、燃えさした跡の火皿がしばらくは一人で晃々。 下 夜は根城を明け渡した。竹藪に伏勢を張ッている村雀はあらたに軍議を開き初め、閨の隙間から斫り込んで来る暁の光は次第・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫