・・・ちょっと恵比寿に似たようなところもあるが、鼻が烏天狗の嘴のように尖って突出している。柿の熟したような色をしたその顔が、さもさも喜びに堪えないといったように、心の笑みを絞り出した表情をしている。これが生きている人の本当の顔ならば、おそらく一分・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・天狗は既に烏天狗の域を脱して凄い赤鼻と、炬火のような眼をもった大天狗だ。天狗は百姓を見て云った。「ヤイ虫ケラ。俺に遭ったのは百年目だ。サア喰ってやるから覚悟しろ」 百姓は浅黄股引姿でブルブル震えながら云った。「アアこれはこれは天・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
出典:青空文庫