・・・のみ。それ光あれば、必ず暗あり。DS の昼と悪魔の夜と交々この世を統べん事、あるべからずとは云い難し。されどわれら悪魔の族はその性悪なれど、善を忘れず。右の眼は「いんへるの」の無間の暗を見るとも云えど、左の眼は今もなお、「はらいそ」の光を麗・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・ 日蓮はこの論旨を、いちいち諸経を引いて論証しつつ、清澄山の南面堂で、師僧、地頭、両親、法友ならびに大衆の面前で憶するところなく闡説し、「念仏無間。禅天魔。真言亡国。律国賊。既成の諸宗はことごとく堕地獄の因縁である」と宣言した。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・とヒラリと素裸になって、寝衣に着かえてしまって、 やぼならこうした うきめはせまじ、と無間の鐘のめりやすを、どこで聞きかじってか中音に唸り出す。 幸田露伴 「貧乏」
・・・底のない墜落、無間奈落を知って居るか、加速度、加速度、流星と同じくらいのはやさで、落下しながらも、少年は背丈のび、暗黒の洞穴、どんどん落下しながら手さぐりの恋をして、落下の中途にて分娩、母乳、病い、老衰、いまわのきわの命、いっさい落下、死亡・・・ 太宰治 「創生記」
・・・身の毛もよだつ無間奈落だ。こいつをちらとでも覗いたら最後、ひとは一こともものを言えなくなる。筆を執っても原稿用紙の隅に自分の似顔画を落書したりなどするだけで、一字も書けない。それでいて、そのひとは世にも恐ろしい或るひとつの小説をこっそり企て・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・審判 人を審判する場合。それは自分に、しかばねを、神を、感じているときだ。無間奈落 押せども、ひけども、うごかぬ扉が、この世の中にある。地獄の門をさえ冷然とくぐったダンテもこの扉については、語るを避けた。・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫