・・・ここにおいてか芭蕉は無比無類の俳人として認められ、また一人のこれに匹敵する者あるを見ざるの有様なりき。芭蕉は実に敵手なきか。曰く、否。 芭蕉が創造の功は俳諧史上特筆すべきものたること論を竢たず。この点において何人かよくこれに凌駕せん。芭・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・それとも無類に美しい容貌の夫であろうか。或はやさしく真実な騎士の愛情であろうか。とつおいつしながらまた別の森に来かかった。すると樹の間から赤い着物を着て、恐ろしい顔をした一人の女が出て来た。そしてガラハートに呼びかけた。「ガラハートよ。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ この翁媼二人の中の好いことは無類である。近所のものは、若しあれが若い男女であったら、どうも平気で見ていることが出来まいなどと云った。中には、あれは夫婦ではあるまい、兄妹だろうと云うものもあった。その理由とする所を聞けば、あの二人は隔て・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・支那人は辛抱強いことは無類だよ。兎に角その女はそれきり粟稈の中から起きずにしまったそうだ。」主人は最後の一句を、特別にゆっくり言った。 違棚の上でしつっこい金の装飾をした置時計がちいんと一つ鳴った。「もう一時だ。寝ようかな。」こう云・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・あなたの御亭主と云うのは年が五十、そうですね、五十五六くらいで、頭がすっかり禿げていて、失礼ですが、無類の不男だったろうじゃありませんか。おまけに背中は曲がって、毛だらけで、目も鼻もあるかないか分からないようで、歯が脱けていて。 女。お・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫