・・・……どっちだかそれは解らんが、とにかく相互の熱情熱愛に人畜の差別を撥無して、渾然として一如となる、」とあるはこの瞬間の心持をいったもんだ。 この犬が或る日、二葉亭が出勤した留守中、お客が来て格子を排けた途端に飛出し、何処へか逃げてしまっ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 私を、現実の苦しみから救うものは、逃避でもなく、妥協でもなく、また終わりなき戦いでもなく、全く、創造の熱愛があるからです。私は、創造のために、いかなる戦いも辞せない。 私達が、この現実に於て、あらゆる方面や、形に於て戦うということ・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・ 現実は説明の出来ない力であるが、若し芸術家が真に此の現実の前に謙遜であり、それを熱愛し、それを痛感しているならば、其の人の芸術は必ず民衆の胸を衝き、誰れにでも強い感激を与え得るに違いない。何となれば芸術は凡ての現実の極度だからである。・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・このことは、即ち、親達が、そして教える人達が、先ず真理の熱愛者でなければならぬことを語るに他ならないと思うのであります。 小川未明 「読んできかせる場合」
・・・予言者には宇宙の真理とひとつになったという宗教的霊覚がなければならぬのは勿論であるが、さらに特に己れの生きている時代相への痛切な関心と、鋭邁な批判と、燃ゆるが如き本能的な熱愛とをもっていなければならない。普通妥当の真理への忠実公正というだけ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・日本にも、それら大家への熱愛者が五万といるのであるから、私が、その作品を下手にいじくりまわしたならば、たちまち殴り倒されてしまうであろう。めったなことは言われぬ。それが HERBERT さんだったら、かえって私が、埋もれた天才を掘り出したな・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・あにを熱愛していたぼくは、マルキシズムの理論的影響失せなかったぼくは、直に共鳴して、鎌倉の別荘を売ったぼくの学費を盗みだして兄に渡し、自分も学内にR・Sを作りました。関タッチイはそのメンバーであり、彼の下宿はアジトでした。その頃、自殺を企て・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ これもいかにも八雲氏の熱愛した固有日本の夢を象徴するもののように見えておもしろい。このような蒲団地は、今日ではもうたぶんデパートはもちろんどこの呉服屋にも見つからないであろう。それをわざわざ調製したのだそうである。小山書店主人のなみな・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・先生自身が自然探究に対する熱愛をもっていれば、それは自然に生徒に伝染しないはずはない。実例の力はあらゆる言詞より強いからである。 すべての小学校、中学校の先生が皆立派な科学者でなければならないという事を望むのは無理である。実行不可能であ・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・絵具商のタンギイ爺さんというのがセザンヌ一派を熱愛して、たまにセザンヌの絵を求めてくる人があると、画室へ自分が案内して選ばせたのだそうですが、その画室には、一枚のキャンバスに小さいモティブの絵がいくつか別々に描かれていて、貧しい愛好家は一ル・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫