・・・あたしがどんなわがままを言っても、また、いけない事をしても、お母さんは一度もお叱りにならず、いつも笑ってあたしを猫可愛がりに可愛がっていらっしゃる。あんな優しいお母さんてないわよ。優しすぎるわ、よすぎるわ。いつかあたしが、足の親指の爪をはが・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・ いくら二十にはなって居ても母親のそばで猫可愛がりにされつけて居たお君には、晦日におてっぱらいになるきっちりの金を、巧くやりくって行くだけの腕もなかったし、一体に、おぼこじみた女なので長い間、貧乏に馴れて、財布の外から中の金高を察しるほ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 只猫可愛がりになり勝な二十七になる女中は、主婦がだまって居ると、涼しい様にと、冷しすぎたものを持って行ったり、重湯に御飯粒を入れたり仕がちであった。可愛がって、自分の子を殺して仕舞う女はこんなんだろうと思うと、只無智と云う事のみが産む・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
出典:青空文庫