・・・ 紙屋だったと云う田口一等卒は、同じ中隊から選抜された、これは大工だったと云う、堀尾一等卒に話しかけた。「みんなこっちへ敬礼しているぜ。」 堀尾一等卒は振り返った。なるほどそう云われて見ると、黒々と盛り上った高地の上には、聯隊長・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・ 二 私はそのころ下宿屋住まいでしたが、なにぶん不自由で困りますからいろいろ人に頼んで、ついに田口という人の二階二間を借り、衣食いっさいのことを任すことにしました。 田口というは昔の家老職、城山の下に立派な屋・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・ 栗本は橇の上から呼びかけた。 田口は看護長の返事を待ちながら、傷病者がうまく橇に身を合わそうとがた/\やっているのを見ていた。「おい、おい、田口!……俺だよ。」 痛くない方の手を振ると、伝令は、よう/\栗本に気がついたらし・・・ 黒島伝治 「氷河」
誰でもそうだが、田口もあすこから出てくると、まるで人が変ったのかと思う程、饒舌になっていた。八カ月もの間、壁と壁と壁と壁との間に――つまり小ッちゃい独房の一間に、たった一人ッ切りでいたのだから、自分で自分の声をきけるのは、・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ 明治十九年十二月田口卯吉 識 田口卯吉 「将来の日本」
・・・そういう次第であるから、わが国で、鈴木清太郎、藤原咲平、田口たぐちりゅうざぶろう、平田森三、西村源六郎、高山威雄諸氏の「割れ目の研究」、またこれに連関した辻二郎君の光弾性的研究や、黒田正夫君のリューダー線の研究、大越諄君の刃物の研究等は、い・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・たとえば本誌の当号に掲載された田口たぐちりゅうざぶろう氏の「割れ目」の分布の問題、リヒテンベルク放電像の不思議な形態の問題、落下する液滴の分裂の問題、金米糖の角の発生の問題、金属単晶のすべり面の発生に関する問題また少しちがった方面ではたとえ・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・うん、田口卯吉というのだ。あれなんぞが友達だったのだ。旧思想の破壊というような事に、恐ろしく力瘤を入れていたのだな。不動様の罰だか、親の罰だか、知らねえが、間もなく病気になって死んじまやぁがった。」「まあ言って見れば、Fanatiker・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫