・・・その他の発光動物に関するものを捜しているが、まとまった手ごろな本はまだ見つからない。おかしいことには自身の捜さないのではずいぶん特殊な狭い題目の本が有り過ぎるほどあるような気がするのである。 同じことを書いた本が幾種類もあるより、まだ本・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 非常な暴風のために空気中に物理的な発光現象が起るということは全然あり得ないと断定することも今のところ困難である。そういう可能性も全く考えられなくはないからである。しかし何よりも先ず事実の方から確かめてかかる事が肝心であるから、万一読者・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ すぐ眼の下の汀に葉蘭のような形をした草が一面に生えているが、その葉の色が血のように紅くて、蒼白い月光を受けながら、あたかも自分で発光するもののように透明に紅く光っているのであった。 欄干の隅の花鉢に近づいてその中から一輪の薔薇を取・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・何処へ行くのか――自然は息をひそめその青白き発光体の尾を凝視る。何処へ落ちようと云うのか―― 私は 知って居る。自ら わが心の流れよるかの遠い 遠い 樹林の蔭に青春の落ちた 星はあるのだ。・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・彼女の内の発光体の眩ゆさで自分も外界も見えぬ。 ○ 油井は、お清夫婦とみのえを誘って活動写真など見物に出かけた。「もうこれから帰るの面倒くさくなっちゃった。泊めて下さい」 そう云う翌朝、みのえ・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・たとえばキュリー夫人のラジウムにしろ、もし彼女とその卓抜な夫のピエールとがある発光体に最初の注意をひきつけられてゆかなかったとしたらば、彼女の不撓な根気強さもラジウムに到達することはなかった。 こうして考えてみると、現実を知っているとい・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
出典:青空文庫