・・・所が、千五百五年になると、ボヘミアで、ココトと云う機織りが、六十年以前にその祖父の埋めた財宝を彼の助けを借りて、発掘する事が出来た。そればかりではない。千五百四十七年には、シュレスウィッヒの僧正パウル・フォン・アイツェンと云う男が、ハムブル・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・しかし敦煌の発掘品等に徴すれば、書画は五百年を閲した後にも依然として力を保っているらしい。のみならず文章も千古無窮に力を保つかどうかは疑問である。観念も時の支配の外に超然としていることの出来るものではない。我我の祖先は「神」と言う言葉に衣冠・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・古い立派な人の墓を掘ることは行われた事で、明の天子の墓を悪僧が掘って種の貴い物を奪い、おまけに骸骨を足蹴にしたので罰が当って脚疾になり、その事遂に発覚するに至った読むさえ忌わしい談は雑書に見えている。発掘さるるを厭って曹操は多くの偽塚を造っ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・文学は文字の発明以前から語りものとして伝わり、絵画彫刻は洞壁や発掘物の表面に跡をとどめている。音楽舞踊はいかなる野蛮民族の間にも現存する。建築や演劇でも、いずれもかなりな灰色の昔にまでその発達の径路をさかのぼる事ができるであろう。マグダレニ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・いい素材を発見しまた発掘するということのほうがなかなか困難であってひと通りならぬ才能を要する場合が多く、むしろそれを使って下手な体系などを作ることよりも、もっとはるかに困難であると考えられる場合も少なくはない。そうして学術上の良い素材は一度・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・それが昔の楼蘭であることは発掘の文書で明らかになった。この死市街の南から東へかけた平坦な砂漠の水準測量をやった結果、これが昔の湖水の跡だということが推論された。それでヘディンは、タリムの下流は約千五百年の週期で振り子のように南北に振動し変位・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・またそのたしかに于大寺の廃趾から発掘された壁画の中の三人なことを知りました。私はしずかにそっちへ進み愕かさないようにごく声低く挨拶しました。「お早う、于大寺の壁画の中の子供さんたち。」 三人一緒にこっちを向きました。その瓔珞のかがや・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・ ヴェルダン市とその周囲の山々につづく村落とはまったく廃墟となっていて、市役所の跡などはポンペイの発掘された市のとおり、土台だけが遺されている。 一望果しなく荒涼とした草原を自動車は疾駆し次第に山腹よりに近づき、ドーモンその他の砲台・・・ 宮本百合子 「金色の口」
・・・しかし、それはどこまでも情熱を呼び出そうとし、それを欲している感情であって、情熱によって不屈に試みられた人生発掘ではない。このことはこの二、三年間のさまざまな思想的文学的態度の提唱の中にも感じられることである。 日本人が、感情的、情緒的・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・もしこの問題が、連鎖反応式に中央アジアのいくつかの遺蹟の発掘をひき起こしたとしたら、やがて千四百年前の中央アジアの偉観がわれわれの前に展開してくるであろう。 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫