・・・しかしそれも僕の発議じゃない。あんまり和田が乗りたがるから、おつき合いにちょいと乗って見たんだ。――だがあいつは楽じゃないぜ。野口のような胃弱は乗らないが好い。」「子供じゃあるまいし。木馬になんぞ乗るやつがあるもんか?」 野口という・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・勿論私にしても格別釣に執着があった訳でもありませんから、早速彼の発議に同意して、当日は兼ねての約束通り柳橋の舟宿で落合ってから、まだ月の出ない中に、猪牙舟で大川へ漕ぎ出しました。「あの頃の大川の夕景色は、たとい昔の風流には及ばなかったか・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・――茶受にしよう、是非お千さんにも食べさしたいと、甘谷の発議。で、宗吉がこれを買いに遣られたのが事の原因であった。 何分にも、十六七の食盛りが、毎日々々、三度の食事にがつがつしていた処へ、朝飯前とたとえにも言うのが、突落されるように嶮し・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・それから、吉原へ行こうという友人の発議に、僕もむしゃくしゃ腹を癒すにはよかろうと思って、賛成し、二人はその道を北に向って車で駆けらした。 翌朝になって、僕も金がなければ、友人もわずかしか持っていない。止むを得ず、僕がいのこって、友人が当・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・万々なれどどうぞ御近日とありふれたる送り詞を、契約に片務あり果たさざるを得ずと思い出したる俊雄は早や友仙の袖や袂が眼前に隠顕き賛否いずれとも決しかねたる真向からまんざら小春が憎いでもあるまいと遠慮なく発議者に斬り込まれそれ知られては行くも憂・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・商家の縁の下からは、夜陰に主人の寝息を伺って、いつ脅迫暗殺の白刄が畳を貫いて閃き出るか計られぬと云うような暗澹極まる疑念が、何処となしに時代の空気の中に漂って居た頃で、私の家では、父とも母とも、誰れの発議とも知らず、出入の鳶の者に夜廻りをさ・・・ 永井荷風 「狐」
・・・すると重役会で、ある重役がそれをあのまま醸造所にしようということを発議しました。そこでわたくしどもも賛成して試験的にごくわずか造って見たのですが、それを税務署へ届け出なかったのです。ところがそれをだしにして、わたくしのある部下のものがわたく・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ Aが発議をし、折角の心持にけちをつけるのを思ってやめたのだが、自分には一寸いやな心持がした。仮令父母は居ないでも、彼等の家であることに変りはない。その家へ来るなと云われたのに、留守の間に、祖母の為とは云え、入るのは、何処となく純粋でな・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫