・・・特に深く我心を動かしたのは、今まで愛らしく話したり、歌ったり、遊んだりしていた者が、忽ち消えて壺中の白骨となるというのは、如何なる訳であろうか。もし人生はこれまでのものであるというならば、人生ほどつまらぬものはない、此処には深き意味がなくて・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・併し其苦痛も臭気も一時の事として白骨になってしまうと最早サッパリしたものであるが、自分が無くなって白骨許りになったというのは甚だ物足らぬ感じである。白骨も自分の物には違い無いが、白骨許りでは自分の感じにはならぬ。土葬は窮屈であるけれど自分の・・・ 正岡子規 「死後」
・・・その軍隊が壊滅した時、軍隊は同じその残虐さで数十万の人々をジャングルや山嶽の間にすてて餓死させ、白骨としました。 アジアの姉妹たちよ。そして日本の女性たちよ。アジアの地図の大半の土地からは、わたしたちが愛した者の最期のうめきがつたわって・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・ダンテの名もあるとハガキに父は書いているが、神曲の作者は沙翁がエリザベス女皇の劇場で活躍するより数世紀以前に白骨となっている。どこの、どの、神曲を書かさるるこれはダンテであったのだろうか。 書簡註。緑濃き野面に一本・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・新王はただ一人で妃の探索に出かけ、妃の夢の告げによって山中で妃の白骨と十二歳になった王子とを見いだすのである。そこで不老上人に乞うて妃を元の姿に行ないかえしてもらうということが、話の本筋にはいってくる。妃の蘇りにとって障げとなったのは、妃の・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫