・・・将棋の定跡というオルソドックスに対する坂田の挑戦であった。将棋の盤面は八十一の桝という限界を持っているが、しかし、一歩の動かし方の違いは無数の変化を伴なって、その変化の可能性は、例えば一つの偶然が一人の人間の人生を変えてしまう可能性のように・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ただあきれ返って、しょうことなしに盤面を見ていた。「徳さんは碁が打てたかね。」と叔父は打ちながら問うた。「まるでだめです。」「でも四つ目殺しぐらいはできるだろう。」「五目並べならできます。」「ハハヽヽヽヽ五目並べじゃしか・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・ さわやかな秋の時計の盤面には、青く灼かれたはがねの二本の針が、くっきり十一時を指しました。みんなは、一ぺんに下りて、車室の中はがらんとなってしまいました。〔二十分停車〕と時計の下に書いてありました。「ぼくたちも降りて見ようか。・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ その盤面は青じろくて、ツルツル光って、いかにも舶来の上等らしく、どこでも見たことのないようなものでした。 赤シャツは右腕をあげて自分の腕時計を見て何気なく低くつぶやきました。「あいつは十五分進んでいるな。」それから腕時計の竜頭・・・ 宮沢賢治 「耕耘部の時計」
出典:青空文庫