・・・ これこれこう、こういう浴衣と葛籠の底から取出すと、まあ姉さんと進むる膝、灯とともに乗出す膝を、突合した上へ乗せ合って、その時はこういう風、仏におなりの前だから、優しいばかりか、目許口付、品があって気高うてと、お縫が謂えば、ちらちらと、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ と微酔の目元を花やかに莞爾すると、「あら、お嬢様。」「可厭ですよ。」 と仰山に二人が怯えた。女弟子の驚いたのなぞは構わないが、読者を怯しては不可い。滝壷へ投沈めた同じ白金の釵が、その日のうちに再び紫玉の黒髪に戻った仔細を言・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・「しっとりとした、いい容子ね、目許に恐ろしく情のある、口許の優しい、少し寂しい。」 三人とも振返ると、町並樹の影に、その頸許が白く、肩が窶れていた。 かねて、外套氏から聞いた、お藻代の俤に直面した気がしたのである。 路地うち・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ と膝をぐったり、と頭を振って、「失礼ですが、お住所は?」「は、提灯よ。」 と目許の微笑。丁と、手にした猪口を落すように置くと、手巾ではっと口を押えて、自分でも可笑かったか、くすくす笑う。「町名、町名、結構。」 一帆・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・豊吉は夢のさめたようにちょっと目をみはって、さびしい微笑を目元に浮かべた。 すると、一人の十二、三の少年が釣竿を持って、小陰から出て来て豊吉には気が付かぬらしく、こなたを見向きもしないで軍歌らしいものを小声で唱いながらむこうへ行く、その・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・』 この時、のそり挨拶なしに土間に現われたのが二十四、五の、小づくりな色の浅ぐろい、目元の優しい男。『オヤ幸ちゃんが! 今お前さんのうわさをしていたのよ。』実はお神さん少し驚いてまごついたのである。『先生今日は。』『この二、・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・そして何とも形容のしようのない妙な笑いを目元に浮かべて僕に抱きついた。そして目のうちには涙を浮かべていた。 * * * * この日は猟師が言ったほどの大猟では・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・それで相手の顔は見ないで、月を仰だ目元は其丸顔に適好しく、品の好い愛嬌のある小躯の女である。「用というのは大概解って居ますが、色々話もあるから一寸お上んなさいよ。」「そう、あの局の帰りに来ると宜んだけど、家に急ぐ用が有ったもんだから・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・』 しかし文造は梅子の優しい言葉、その微笑、その愛らしい目元、見かわすごとに愛と幸いとで輝いた目元を想い起こすと、堪ゆべからざる悲痛が胸を衝いて来た。あらあらしく頭を壁に押しつけてもがいた。座ぶとんに顔を埋めてしばらく声をのんで哭した。・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・秋山は二十五か六という年輩で、丸く肥えて赤ら顔で、目元に愛嬌があって、いつもにこにこしているらしい。大津は無名の文学者で、秋山は無名の画家で不思議にも同種類の青年がこの田舎の旅宿で落ち合ったのであった。『もう寝ようかねエ。随分悪口も言い・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
出典:青空文庫