・・・彼は、その本能的な、その上、いつまでも人生の裏道を通らねばならないことから来る、鋭い直感で、大抵一切のことを了解した。今度はどの位だな、と思っていると、大抵刑期はそれより一年とは違わなかった。――一年の人間の生活は短くない。だが、無頼漢共を・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・下山夫人が妻として良人の自殺を直感して、身辺の者にそのことを洩らしたという事実さえ今日まで公表させませんでした。夫人はどういう圧力に強要されたのか、自殺なんてとんでもないということばをくりかえし公表させられていました。そのために、事件がわけ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・中に働いて生きるものとして生きているという社会的な本質にたって、まともに生きようと欲している、という人生のテーマと、そこにある感覚をしっかりもって、ふれる文学作品の一つ一つについて、心にひきおこされる直感的な判断を大切に保って、それを社会的・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・ 宗達の芸術家としての直感が、生命の爽やかさに充ちていたことが、ここにも窺われると思う。彼は、画面の隅から隅までが豊かに息づいて滞らないことをのぞんでいる。もし背中だけ向けている三人を大きく出せば、生動する画面に計らず一つらなりのめくら・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・解決するには余りに重大な社会情勢であることを直感しはじめているのではないだろうか。 諸新聞には、三土内相その他政党首領たちの言葉として、制限連記制が不適当な方法であったことを強調された。婦人代議士のどっさり出たことも、この不適当な選挙方・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 刻々とすさまじく推移せる世界と国内社会の動きを直感して、おそらくはあらゆる作家が、自分の存在について再認識を求められてきた。戦争は文化を花咲かせるものでないから、文筆生活者として生活の不安もつのった。それからの脱出として、既成の作家た・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 此点から云うと、性慾生活に於て、或は生理的な条件から其等責任感を、本能的に直感して居る女性の方が、多くの場合、性慾の純粋さを保ち得るのである。 男性よりも、女性の方が、愛を持たずに性的交渉を持つに堪えない感情を持って居る。 男・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・ 使用上、所謂、敬語、階級的な感情、観念を現す差別の多いこと、女の言葉、男の言葉に著しい違いのある点、文字が見た眼には、字画がグロテスクで、実は精緻な直感に欠けていることなども不満としてあげられます。 けれども、ペンをとり、物を書こ・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
独断 芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従って個性を異にするわれわれの感覚的享受もまた、各個の感性的直感の相違によりてなお一段と独断的なものである。それ故に文学上に於ける感覚・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・排中律のまっただ中に泛んだ、ただ一つの直感の真実は、こうしていま梶に見事な実例を示してくれていて、「さア、どうだ、どうだ。返答しろ。」と梶に迫って来ているようなものだった。それにも拘らず、まだ梶は黙っているのである。「見たままのことさ、おれ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫