・・・この十年間に、文学運動の上では、言文一致の提唱とその勝利があったが、そしてそれは、より直接的に社会生活を反映し得る手段を整えたものと云い得るのだが、作品に於ては、現実は歪曲され、愛国主義は鼓吹された。自然主義運動勃興以前の各既成作家の行きづ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・紅毛人の I love you には、日本人の想像にも及ばぬ或る種の直接的な感情が含まれている様子で、「愛します」という言葉は、日本に於いてこそ綺麗な精神的なものと思われているようですが、紅毛人に於いては、もっと、せっぱつまった意味で用いら・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・しかし「その際重要視すべきことは、その関係が直接的なものとしては表にあらわれないということ」である。「キャナライゼーションとデモクラシーとの関係はアメリカにとって一つの難問だと思います」 これはなかなか意味の深い点で、文化の問題として客・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・の生活で自然の美を謳うより先に懸念されるのはその自然との格闘においてどれだけの収穫をとり得るかという心痛であり、しかも、それは現代の経済段階においては、純粋な労働の成果に関する関心ではなくて、債鬼への直接的連想の苦しみなのである。せんだって・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・人間の理性が千年の夢からやっと目醒めかけたばかりの、ヨーロッパでは数千人の魔法使を焼き殺したところの、そして誰でも人間と魔の力との直接的関係の可能性を疑うものはなかったところの、そういう野蛮な世紀の子である」「彼が自分のドラマの中に導入・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」
・・・『文新』『働く婦人』等への投書家、読者、通信員へのソシキ的働きかけを忘れることなく、しかも最も直接的に、即刻なされねばならない。サークル活動をあくまでも主として。だが私達のサークル活動が、工場・農村のメーデー行進へ性急にひきずり込むため・・・ 宮本百合子 「メーデーに備えろ」
・・・従って官能的表徴は外的直感が客観に対する関係に於て、より感性的に感覚的表徴より先行し直接的に認識され直感される。此のため官能的表徴は感覚的表徴よりもより直截で鮮明な印象を実感さす。が、実は感覚的表徴のそれのごとく象徴せられた複合的綜合的統一・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・それだけ、今ごろ標札のかわりに色紙を欲しがる青年の戯れに実感がこもり、梶には、他人事ではない直接的な繋がりを身に感じた。当時の悩みの種が意外なところへ落ちていて、いつの間にかそこで葉を伸ばしていたのである。彼は一日も早く栖方に会ってみたくな・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ 第一の理由は直接的である。私は彼らが好きであった。彼らの顔を見、彼らと語ることが限りなく嬉しかった。そうして私は彼らの内に勇ましい生活の戦士を見、生の意義を追い求める青年の焦燥をともにし得ると思った。彼らの雰囲気が青春に充ち、極度に自・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・むしろそれは作者の生の動きの直接的な表現である。生の外現としての表情を媒介とすることなく、直接に作者の生が現われるのである。そのためには表情が殺されなくてはならない。ちょうど水墨画の溌剌とした筆触が描かれる形象の要求する線ではなくして、むし・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫