・・・つまり相場の上下がある。そして、その相場はたった一人の人間が毎朝決定して、その指令が五つの闇市場へ飛び、その日の相場の統制が保たれるらしい――という話を、私はきいたが、もしそうだとすれば、そのたった一人の人間の統制力というものは、この国の政・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・当時、溝の側から貝塚まで乗せて三十六銭が相場で、九十銭くれれば高野山まで走る俥夫もざらにいた。 しかし、間もなく朦朧俥夫の取締規則が出来て、溝の側の溜場にも屡しばしばお手入れがあってみると、さすがに丹造も居たたまれず、暫らくまごまごした・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それを売って呉れぬかというと、これはお客に出すために買ったのだが、相場がだいぶ違うのだという。 じゃ、「闇」で買ったのかときく。いや「闇」じゃないんだがという。──どうだかあやしいものである。宿屋に泊る客も勿論外米を食うべきである。が、・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・そして、また、ルーブル相場がさがってきたと話した。「さがれゃ、さがって、こちとらは、物を高く売りつけりゃええだ。なに、かまうこっちゃねえだ」 呉清輝は、実際、かげにかくれてこそこそと、あぶない仕事をやるために産れてきたような男だ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ 地主は小作料の代りに、今、相場が高くって、百姓の生活を支える唯一の手だてになっている豚を差押えようとしていた。それに対して、百姓達は押えに来た際、豚を柵から出して野に放とう、そうして持主を分らなくしよう。こう会合できめたのであった。会・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・と立帰り行くを見送って、「おえねえ頓痴奇だ、坊主ッ返りの田舎漢の癖に相場も天賽も気が強え、あれでもやっぱり取られるつもりじゃあねえ中が可笑い。ハハハ、いい業ざらしだ。と一人笑うところへ、女房おとまぶらりッと帰り来る。見れば酒も持・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下している。警察・裁判所・監獄は、多忙をきわめている。今日の社会においては、もし疾病なく、傷害なく、真に自然の死をとげうる人があるとすれば、それは、希代の偶然・僥倖といわねばならぬ。 実際、いかに絶大の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・一日も速く来らんことを望むのである、が、少くとも今日の社会、東洋第一の花の都には、地上にも空中にも恐るべき病菌が充満して居る、汽車・電車は、毎日のように衝突したり人を轢いたりして居る、米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下して居る、警察・裁判・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・雄君閣下初めて天に昇るを得て小春がその歳暮裾曳く弘め、用度をここに仰ぎたてまつれば上げ下げならぬ大吉が二挺三味線つれてその節優遇の意を昭らかにせられたり おしゅんは伝兵衛おさんは茂兵衛小春は俊雄と相場が極まれば望みのごとく浮名は広まり逢・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・殿「それは何んだの相場によって違うが、大抵二十五両ぐらいの通用のものである」七「へえ一枚二十五両ッ……これが一枚あれば家内にぐず/″\いわれる訳はないが、二枚並んでゝも他人の宝を見たって仕方がないな」殿「何をぐず/″\いって居る・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
出典:青空文庫