・・・――姐さん、これはお酌を強請ったような料簡ではありません。真人間が、真面目に、師の前、両親の前、神仏の前で頼むのとおなじ心で云うんです。――私は孤児だが、かつて志を得たら、東京へ迎えます。と言ううちに、両親はなくなりました。その親たちの位牌・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・ それにしてもYを心から悔悛めさせて、切めては世間並の真人間にしなければ沼南の高誼に対して済まぬから、年長者の義務としても門生でも何でもなくても日頃親しく出入する由縁から十分訓誡して目を覚まさしてやろうと思い、一つはYを四角四面の謹厳一・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ どこまでお前は、ふざけやがって、真人間になれ!睦子、火のついたように泣き出し、数枝の懐にしがみつく。数枝は、冷然たり。 お前ひとりのために、お前ひとりのために、この家が、お前ひとりのために、どれだけ、(何か呟・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・どうか早く本体を顕して真人間に戻って貰いたいものだ」と評して居る。真人間のすきな人間氏よ、安心なさい。鏡花は完全に化けぬいた。ユニークな天才と化け得て一九二五年の文壇に生彩を放って居るから。 これについて当時の批評と云うものについて・・・ 宮本百合子 「無題(五)」
出典:青空文庫