・・・ しかし不幸にして科学が進歩するとともに科学というものの真価が誤解され、買いかぶられた結果として、化け物に対する世人の興味が不正当に希薄になった、今どき本気になって化け物の研究でも始めようという人はかなり気が引けるであろうと思う時代・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 社会の風教を乱すような邪教淫祠、いかがわしい医療方法や薬剤、科学の仮面をかぶった非科学的無価値の発明や発見、そういうものに世人の多くが迷わされて深入りしない前にそれらの真価を探求したい。官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・そのうちに生徒の方でも実験というものの性質がだんだん分って来ようし、教員の真価も自ずから明らかになろうと思う。そういう事を理解するだけでもその効能はなかなか大きいものであろう。これに反して誤った傾向に生徒を導くような事があっては生徒の科学的・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・岡鬼太郎君は近松の真価は世話物ではなくして時代物であると言われたが、わたくしは岡君の言う所に心服している。 西鶴の価を思切って低くして考えれば、谷崎君がわたくしを以て西鶴の亜流となした事もさして過賞とするにも及ばないであろう。 江戸・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ 人間の心の底に永久に、ローマン主義の英雄崇拝的情緒的の傾向の存する限り、この心は永存するものであるが、それを全く無視して、人間の弱点ばかりを示すのは、文学としての真価を有するものでない、片輪な出来損いの芸術であります。如何に人間の弱点・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・ 五箇年計画と資本主義世界の行きづまりとの激しい対立を目撃したソヴェトのプロレタリアートは、社会主義社会建設の真価とプロレタリア文化の値うちをしんから理解した。 彼等は、文学をもうただ専門家に書いて貰って読むというだけの、受け身な立・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・マーニャが、天性の勤勉さ、緻密で、敏活な頭脳を、こうしてごく若いころから自分の功名のためだけに使おうなどとは思いもしなかった気質こそ、後年キュリー夫人として科学者、人間としての彼女の真価をきめるものとなったと思います。 姉のブローニャが・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・彼以後の七十八年間の人類文明の貴重な進歩は、彼によって印された家族に関する研究の第一歩を、いかなる具体的・現実的研究にまで推し出して来ているかという、正確にしてよろこばしき知識に照りかえされて、初めて真価を発揮するものと思う。 現代の婦・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・ 日和見主義との妥協なき闘争の階級的意義を理解することなしに、同志小林の不撓な闘争の真価を理解することは不可能である。日和見主義を克服することなしには同志小林の復讐を誓うということさえ実践的にはあり得ないのである。 ・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・芸術の真価はそこにあるのではございますまいか。 そういう意味に於て、私は「霊魂の赤ん坊」を忘れることが出来ません。 あの御作の裡には、貴女でなければ持得ない芸術的表現と、価値の人格化が行われていると存じます。心を動かさずには置きませ・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
出典:青空文庫