・・・或る意味での知的デカダンスである。智慧の輪の好きな人間ときらいな人間がある。きらいな人間の方がより真実の意味でインテレクチュアルであるし、溌剌として現実的である。 科学者が自身の科学的知識によって文筆上いろいろ遊ぶのがいけないと一口に云・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ね、カーチャ、考えてくれ、僕たちの周囲に君をおいてどんな知的な女がいる? くだらない俗人女か頓智一つ持ち合わせない職場の棒杭かじゃないか! そういう無智な圏境で――カーチャ! カーチャは腕時計をのぞき、それから放ぽり出されている書類入鞄・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ 此方の婦人と云えば、只一口に、何、アメリカのお転婆女は、男を圧迫して、暴威を振う事ほか知らないのだとけなす人もあれば、否左様ではない、アメリカの女位知的で、活動的で、芸術的で、総ての点に完全な婦人はないと讚美する人もございます。 ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・彼の主観的な知的、感覚的探求心を誘いよせた。そして、六十三歳のジイドはそこに「個々の人間の自由な発展こそ、すべての人間の自由な発達の欠くべからざる条件である」ことを理解し、実現せんとしている新社会を発見したのであった。 ここで、私た・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・この婦人に対する一見知的で実は感覚的なものの上に立つ思想はトルストイの全芸術を貫く一つの著しい基調となっている。 トルストイアンと称する連中にとりかこまれ、無抵抗主義の信条で、全財産を放棄したがっているトルストイの希望に、怯え、憎悪し、・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・青野氏は、かかる性質の教養こそ、知的探求こそ、現代の作家が必要としていることを主張することで、一層ヒューマニズムと作家との関係の具体性を示しているのである。 ところが更にもう一歩すすんで、きわめて素朴な質問がここになされる。では、そのよ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・と彼らしく皮肉な自己の知的優越をもほのめかさずにはいられなかった。当時流行作家であったと共に一部からは権威とも目されていた芥川龍之介が、昭和二年七月「或旧友へ送る手記」を残して三十歳の生涯を終るに至った内外の動機は何であったろう。「少くとも・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そして今日外国の知識人がおどろいてそのころの日本の状態を理解しがたく感じるほどの知的麻痺がひき起された。社会生活の現実で、「知らしむべからず・よらしむべきもの」としてあつかわれた人民そのものの無権利状態に、すべての人々がつきおとされたのであ・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・木曜日の晩には、そこへ行きさえすれば、楽しい知的饗宴にあずかることができたのである。が、そこにはなおサロン以上のものがあったかもしれない。人々は漱石に対する敬愛によって集まっているのではあるが、しかしこの敬愛の共同はやがて友愛的な結合を媒介・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・それは知的と心理的とに特色を有する表現法が因をなしているかも知れない。しかし私は特に彼らの内からメフィストが首を出している所にそれを認めたい。そうしてまたそこに彼らの大きい相違をも認めたい。 ショオが社会に対して浴びせかける辛辣な皮肉の・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫