・・・高松という処の村はずれにある或る神社で、社前の鳥居の一本の石柱は他所のと同じく東の方へ倒れているのに他の一本は全く別の向きに倒れているので、どうも可笑しいと思って話し合っていると、居合わせた小学生が、それもやはり東に倒れていたのを、通行の邪・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・隣の奥さんが女のおくれ毛止めを発明したとかで、門には石柱が立っているその家の庭の方では絶えずモーターの音がしているし、エナメルの匂いが苦しく流れて来た。 どの家へ移った原因にも、みんな夫々の生活の時代が語られているのだけれど、その老松町・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・太い鉄の鎖がどっしり石柱と石柱との間にたれ、わらが数本ちらばっている。ネ河は絶えずはやく流れ、音なくはやく流れている。―― 静かさはどうだ。 明けがた汽車の中で目をさましたとき日本女は、窓からもう一つ水の景色を見た。野原で草が茂って・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫