・・・しかし二千人の白襷隊は、こう云う砲撃の中に機を待ちながら、やはり平生の元気を失わなかった。また恐怖に挫がれないためには、出来るだけ陽気に振舞うほか、仕様のない事も事実だった。「べらぼうに撃ちやがるな。」 堀尾一等卒は空を見上げた。そ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・敵は靉河右岸に沿い九連城以北に工事を継続しつつあり、二十八日も時々砲撃しつつあり、二十六日九里島対岸においてたおれたる敵の馬匹九十五頭、ほかに生馬六頭を得たり――「どうです、鴨緑江大捷の前触れだ、うれしかったねえ、あの時分は。胸がどきど・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・ 俺は鉄砲撃ちなんだ。鉄砲撃ちの平田といえば、このへんでは、知らない者は無いんだ。お好みに応じて何でも撃ってあげますよ。鴨はどうです。鴨なら、あすの朝でも田圃へ出て十羽くらいすぐ落して見せる。朝めし前に、五十八羽撃ち落した事さえあるんだ。嘘・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・の市街砲撃の場面で、石のライオンが立ち上がって哮吼するのでも、実は三か所で撮った三つの石のライオンの組み合わせに過ぎないということである。 このように静的なものの律動的配合によってさえ非常に動的な陪音を生じうるのであるから、動的なものの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・……今度の大戦で荒らされた地方の森に巣をくっていた鴉は、砲撃がやんで数日たたないうちにもう帰って来て、枝も何も弾丸の雨に吹き飛ばされて坊主になった木の空洞で、平然と子を育てていたと伝えられている。もっともそう言えば戦乱地の住民自身も同様であ・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ そのとき烏の大監督が、「大砲撃てっ。」と号令しました。 艦隊は一斉に、があがあがあがあ、大砲をうちました。 大砲をうつとき、片脚をぷんとうしろへ挙げる艦は、この前のニダナトラの戦役での負傷兵で、音がまだ脚の神経にひびくのです。・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・ 戦艦オーロラーが、冬宮を砲撃した時の写真、軍事革命委員会の本部があった、スモーリヌイの大きな写真を見ると、われ知らず、喜びの叫びが口をついてあふれる。一人のちいちゃい子供が、一生懸命に伸び上って、「ウン? これがスモーリヌイ? う・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
出典:青空文庫