・・・ うむ、そりゃ分ってるが……硫黄の出るところは流石に違うな」「家らしいのは宿屋だけね」 この方面ばかりでなく、宿屋が並んだ表通りを一寸裏へ入ると、どこでも北海道の開墾地へ行ったような有様なのであった。 彼等は、元湯共同浴場と立札・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・の宗教の暗い恐怖すべき力と向いあって、しばしばその恐怖に圧倒されそうになる自分ともたたかいながら、錬金術への疑問を、現実があらわす客観的な真理にしたがって謙遜に解きにかかって、おそらくは目立たぬ生涯を硫黄くさい幼稚な設備の実験室で費した無名・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・本当に、活動から遠のく不安さえ感じなかったら、この自然とともに根気よく、一年でも二年でも落付いていられるだろう。硫黄泉のききめばかりではない。××屋×太郎君が、楢木立の奥の温泉神社へ「報神恩」という額を献納したのも、当を得たことだ。然し。・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・と書いてあって、「硫黄の臭と酸と」と云うことになっている。硫酸では無い。友人が覗いて見て、「硫化水素も酸だから、硫化水素だとしたところで、それで好い」と云って笑った。私は驚いてハルナック本を出して見ると、「ゾイレ」の前に「ヒイフェン」の標識・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫