・・・熱と根気さえあれば白痴でない限り誰でもいくらかの貢献を科学の世界に齎し得るものであるという確信を、先生や先輩に授けられたことが一番尊い賜物であるように思われる。 科学の知識はそれを求める熱さえあれば必ずしも講義は聞かなくても書物からも得・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・なおこの理を適切に申しますと、幾ら形と云うものがはっきり頭に分っておっても、どれほどこうならなければならぬという確信があっても、単に形式の上でのみ纏っているだけで、事実それを実現して見ないときには、いつでも不安心のものであります。それはあな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・考えでありますから、向後この方面に向って、どのくらいの貢献ができるか知れませんが、もし篤実な学者があって、鋭意にそちらを開拓して行かれたならば、学界はこの人のために大いなる利益を享けるに相違なかろうと確信しております。 最後に一言を加え・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・という強い確信は、こうしてソヴェトの労働生活の現実的な建設によって一つ一つ実現されつつあるのだ。希望と勇気にみたされ、わたしは並木道の下を更に工場クラブの方へ行った。〔一九三二年九・十月〕・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
文学の歴史をみわたすと、本当に新しい意味で婦人が文学の活動に誘い出されて来たのは、いつも、人民の権利がいくらか多くなって、すべての人が自分の考えや感じを表現してよいのだ、という確信を得た時代であった。 明治はじめの自由・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・今のように表面的にはそういう新たな歴史の建設的推進力が見にくくされているような時期には、窮乏化する小市民インテリゲンツィアが、確信をもって新たな次代の階級へ自身を移行させることが困難であると同様に、恋愛や結婚の実際に当っても、本質的な発展は・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・再選を奇蹟的だの意外だのと書きながら、一方でその新聞は、トルーマンは彼の困難な選挙活動のはじまりから、非民主的だった第八十議会の実状を率直に訴えれば、アメリカ市民は彼に協力するにちがいないという十分の確信にたっていた、といっているのだから。・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ロンドンに暮しパリを見、ベルリンの病的な印象などとソヴェト生活の現実とを生々しい対比で生きて、そのことから、人類が、幸福を求めて進んで来た歴史の前途に社会主義を確信するようになったのだった。一九二九年の十二月、ヨーロッパの諸国からソヴェトへ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・古い仏画の内にはこの事を確信せしむる二三の例がある。これらの仏画を眼中に置いて現在の日本画を見れば、その弱さと薄さ、その現実を逃避する卑怯な態度などにおいて、明らかに絵の具の罪よりも画家の罪が認められるのである。色彩のみならず線の引き方にお・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・父は医者であるが、医者は病気というものをこの人生から駆逐する任務を持っているという確信で動いていた。父の日常の動作に「報酬のため」或いは「生活費のため」という影のさしたことをかつて見たことがない。報酬はもちろん受ける、しかし自分の任務を果た・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫