・・・ぐるりと裏に廻ると別に入口があり、ここは易々と開いたが、司祭の控室らしく、白い祭服のかかっている衣裳棚などがある。第一、塵もない木の床を下駄で歩いては悪そうだし、困って私は彼方此方を見渡廻した。樟の木蔭に、附属家屋のペンキを剥して、職人が一・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・エルリングが指さしをする方を見ると、祭服を着けた司祭の肖像が卓の上に懸かっている。それより外にはへんがくのようなものは一つも懸けてないらしかった。「あれが友達です。ホオルンベエクと云う隣村の牧師です。やはりわたしと同じように無妻で暮していま・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫