・・・ただ拘泥せざるを特色とする、人事百端、遭逢纏綿の限りなき波瀾はことごとく喜怒哀楽の種で、その喜怒哀楽は必竟するに拘泥するに足らぬものであるというような筆致が彼らの人生に齎し来る福音である。彼らのかいたものには筋のないものが多い。進水式をかく・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・「失業と多産のためにほとんど飢餓にひんしているこの階級の親たちにとっては全く天来の福音である」と新聞の記事はかきたてている。 プロレタリアートの姉妹たち! われわれはこの記事から、プロレタリアの女として、どんな「天来の福音」を感じる・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・公平な立場から書かれた歴史を読むと、私共はシャヴィエル、ワリニヤニ等初期の師父――伴天連達が、神の福音をつげるに勇ましかったと同時、なかなか実際処世上の手腕をも具備していたことをしる。当時、その師父等と交誼のあった日本の君子等は、勿論知識と・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・そう云う人、即ち教育があって、信仰のない人に、単に神を尊敬しろ、福音を尊敬しろと云っても、それは出来ない。そこで信仰しないと同時に、宗教の必要をも認めなくなる。そう云う人は危険思想家である。中には実際は危険思想家になっていながら、信仰のない・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫