・・・これは、天文・地質・生物の諸科学が、われらにおしえるところである。われら人間が、ひとりこの拘束をまぬがれることができようか。 いな、人間の死は、科学の理論を待つまでもなく、実に平凡なる事実、時々刻々の眼前の事実、なんびともあらそうべから・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・私はそれを探求してみたかったという、まあ、理窟を言えばそうなるのですが、でも結局なんにもならなかった。なんにも無いのね。めちゃめちゃだけが在るのね。私は科学者ですから、不可解なもの、わからないものには惹かれるの。それを知り極めないと死んでし・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・仕事が科学上の事であるだけにその成果は極めて鮮明であり、従ってそれを仕遂げた人の科学者としてのえらさもまたそれだけはっきりしている。 レニンの仕事は科学でないだけに、その人のその仕事の遂行者としてのえらさは必ずしも目前の成果のみで計量す・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・器械的な自然界の現象のうち、尤も単調な重複を厭わざるものには、すぐこの型を応用して実生活の便宜を計る事が出来るかも知れない。科学者の研究が未来に反射するというのはこのためである。しかし人間精神上の生活において、吾人がもし一イズムに支配されん・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・一つの世界的空間に於て、強大なる国家と国家とが対立する時、世界は激烈なる闘争に陥らざるを得ない。科学、技術、経済の発達の結果、今日、各国家民族が緊密なる一つの世界的空間に入ったのである。之を解決する途は、各自が世界史的使命を自覚して、各自が・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・と云う考えだから、私の主義は思想の為の思想でもなけりゃ芸術の為の芸術でもなく、また科学の為の科学でもない。人生の為の思想、人生の為の芸術、将た人生の為の科学なのだ。 人生、々々というが、人生た一体何だ。一個の想念じゃないか。今の文学者連・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・ この初期の二つの評論にはっきりあらわれているように階級の歴史的経験を、自身の実感としないではいられなかった著者が「評価の科学性」からのち、益々解放運動とその文学運動の中心課題にてい身してゆくにつれ、論策も主としてプロレタリア文化・文学・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・自然科学はどうだ。物質と云うものでからが存在はしない。物質が元子から組み立てられていると云う。その元子も存在はしない。しかし物質があって、元子から組み立ててあるかのように考えなくては、元子量の勘定が出来ないから、化学は成り立たない。精神学の・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・一つは科学で、一つは文学だ。 もしもコンミニストが、此の文学の、恰も科学の持つがごとき冷然たる素質を排撃するとしたならば、彼らの総帥の曾て活用したる唯物論と雖も、その活用させたる科学的態度を、その活用なし得た科学的部分に於て排撃され・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・そこで子供たちにとっては、松茸を見いだしたということは、科学者がラディウムを見いだしたというほどの大事件であった。通例は松茸以外の茸をしか望むことができなかった。まず芝生めいた気分のところには初茸しかない。が、初茸は芝草のない灌木の下でも見・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫