・・・刑場はちょうど墓原に隣った、石ころの多い空き地である。彼等はそこへ到着すると、一々罪状を読み聞かされた後、太い角柱に括りつけられた。それから右にじょあんなおすみ、中央にじょあん孫七、左にまりやおぎんと云う順に、刑場のまん中へ押し立てられた。・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・あすこに少し空き地が見えるね。――」 それは赤煉瓦の西洋家屋の前、――丁度あの枝のつまった葉柳のある処に当っていた。が、さっきの支那美人はいつかもうそこには見えなくなっていた。「あすこでこの間五人ばかり一時に首を斬られたんだがね。そ・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・のみならず僕の見覚えていた幾つかの空き地さえ見当らなかった。「聞いて見る人もなし、………困りましたね。」 僕はこう言うK君の言葉にはっきり冷笑に近いものを感じた。しかし教えると言った手前、腹を立てる訣にも行かなかった。 僕等はや・・・ 芥川竜之介 「年末の一日」
・・・その建物も、いつしか取り払われて、跡は空き地となってしまったけれど、毎年三月になると、すいせんの根だけは残っていて、青空の下に、黄色い炎の燃えるような花を開きました。そして、この人の心臓に染まるような花の香気は、またなんともいえぬ悲しみを含・・・ 小川未明 「三月の空の下」
・・・ きた当座は、自転車に乗るけいこを付近の空き地にいって、することにしました。また、電話をかけることを習いました。まだ田舎にいて、経験がなかったからです。山本薪炭商の主人は、先生からきいたごとく、さすがに苦労をしてきた人だけあって、はじめ・・・ 小川未明 「空晴れて」
出典:青空文庫