・・・やはり、自転車に乗って三鷹郵便局にやって来て、窓口を間違ったり等して顔から汗をだらだら流し、にこりともせず、ただ狼狽しているのである。 私はそんな男女川の姿を眺め、ああ偉いやつだといつも思う。よっぽど出来た人である。必ずや誠実な男だ。・・・ 太宰治 「男女川と羽左衛門」
・・・ これらの武士道観、恋愛観は、ある意味からともかくも唯物論的な西鶴の立場を窺わせる窓口となるものでないかと思われる。『永代蔵』中に紹介された致富の妙薬「長者丸」の処方、『織留』の中に披露された「長寿法」の講習にも、その他到る処に彼一・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・平田理学士は、先年、某停車場の切符売り場の窓口に立ち寄る人の数に関する統計的調査に普通の統計理論を応用して、それが相当よく当てはまる事を確かめた。最近に東京帝国大学地震学科学生某氏は市内二か所の街上における自動車の往復数に関する統計について・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・そして家々の窓口からは、髭の生えた猫の顔が、額縁の中の絵のようにして、大きく浮き出して現れていた。 戦慄から、私は殆んど息が止まり、正に昏倒するところであった。これは人間の住む世界でなくて、猫ばかり住んでる町ではないのか。一体どうしたと・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・などと札の下った窓口が並んでいる。右側に戸がなるほど二つある。奥の方には「工場委員会」「コムソモール・ヤチェイカ」と札が出ている。みなさんも知っているとおり、ソヴェト同盟では工場を男女労働者自身で経営している。工場の大衆から選挙された工場委・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
十月二十五日。 いよいよモスクワ出立、出立、出発! 朝郵便局へお百度を踏んだ。あまり度々書留小包の窓口へ、見まがうかたなき日本の顔を差し出すので、黄色いボヤボヤの髪をした女局員が少しおこった声で、 ――もうあな・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 銀映座の割引の切符を小さい窓口で買い、釣銭をうけとりながら、私はまざまざと馴染ふかかったその町の穢い映画館で過したいくつかの夜のことを思い出した。 ある年のある日の午後、本郷座をひとりで観ていて、私はなんだか胸が燃えるような思いに・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・その事実は、この頃の税務所の窓口へ行ってみればわかる。街の老若男女が、強硬不屈に、去年よりは十倍と新聞に報じられている所得税の誅求に対してたたかっている。 世論調査には、莫大な費用がかかる。人手もいる。そのために、その費用の支出にたえ調・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ ――芝居の窓口へ行くのさ。そして、その日の、または前売切符を買う。一九二八年頃、おもだった売場にある案内所が切符一枚について十五カペイキか二十カペイキの手数料をとって切符のとりつぎ販売をしていたことがある。この頃それはない。 ――・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・あとの我々みたいな外国人は、窓口へ行って、そこに書いてあるだけの金でもって芝居を見なくてはならぬ。で我々は少くとも職業組合員の倍以上の金で芝居を見るわけで、それだけ職業組合のために、働く者のために便宜を計っている。 子供の芝居はモスクワ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
出典:青空文庫