・・・が、その答弁は参謀の心に、明瞭ならば明瞭なだけ、一層彼等を間牒にしたい、反感に似たものを与えるらしかった。「おい歩兵!」 旅団参謀は鼻声に、この支那人を捉えて来た、戸口にいる歩哨を喚びかけた。歩兵、――それは白襷隊に加わっていた、田・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・ 本当をいうと、私は諸家の批評に対していちいち答弁をすべきであるかもしれない。しかし私は議論というものはとうてい議論に終わりやすくって互いの論点がますます主要なところからはずれていくのを、少しばかりの議論の末に痛切に感じたから、私は単に・・・ 有島武郎 「想片」
・・・中村氏に対しては格別答弁はしなかったが、広津氏に対してはすぐに答えておいた。その後になって現われた批評には堺利彦氏と片山伸氏とのがある。また三上於菟吉氏も書いておられたが僕はその一部分より読まなかった。平林初之輔氏も簡単ながら感想を発表した・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 耕吉は半信半疑の気持からいろいろと問訊してみたが、小僧の答弁はむしろ反感を起させるほどにすらすらと淀みなく出てきた。年齢は十五だと言った。で、「それは本当の話だろうね。……お前嘘だったらひどいぞ」と念を押しながら、まだ十二時過ぎたばか・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・その時の、男の答弁は正しいのです。また、その一言を信頼し、無罪放免した検事の態度も正しいのです。決してお互い妥協しているのではありません。男は、あの決闘の時、女房を殺せ! と願いました。と同時に、決闘やめろ! 拳銃からりと投げ出して二人で笑・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・もしあの、ヘラヘラ笑いの答弁が、官僚の実体だとしたなら、官僚というものは、たしかに悪いものだ。あまりに、なめている。世の中を、なめ過ぎている。私はラジオを聞きながら、その役人の家に放火してやりたいくらいの極度の憎悪を感じたのである。「お・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・私の答弁は、狡猾の心から、こんなに煮え切らないのでは無くて、むしろ、卑屈の心から、こんなに、不明瞭になってしまうのである。皆、私より偉いような気がしているし、とにかく誰でも一生懸命、精一ぱいで生きているのが判っているし、私は何も言えなくなる・・・ 太宰治 「鴎」
・・・二人づれで私のところにやって来ると、ひとりは、もっぱら華やかに愚問を連発して私にからかわれても恐悦の態で、そうして私の答弁は上の空で聞き流し、ただひたすら一座を気まずくしないように努力して、それからもうひとりは、少し暗いところに坐って黙って・・・ 太宰治 「散華」
・・・これに対して、うちの細君はこういう答弁を与えました。それは結局、あなた自身に創意と工夫が無いからだ、いまさら誰をうらむわけにはいかない、東京が空襲で焼かれるだろうという事は、ずいぶん前からわかっていたのだから、焼かれる前に何かしらうまい工夫・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・さとの必死の答弁も、一向に、役に立たなかった様子である。 さとは大いにしょげて、こそこそとお膳を片附け、てれ隠しにわざと、おほほほと笑いながら、またお膳を捧げて部屋から逃げて出て、廊下を歩きながら、泣いてみたいと思ったが、べつに悲しくな・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫