・・・文章を簡明――直截にしようということをこころみていて、そのことのなかには又いろいろの気持がこめられているのでしょうと思われます。 三十一日には、近年にない大雨で、私は、こんな大晦日ってあるものかと思い目をさましました。あなたも雨ふりの東・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ いい言葉づかいというのは、率直、簡明でそれが抜きさしならぬ感覚につかわれることで輝く美しさであると思う。ゴーリキイが、彼の文学論の中で言葉について興味あることをいっている。「すべて言葉というものは、行為や労働から生み出されたものである・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・『プラウダ』の社説という文章は、ジイドのこういう観察と結論とを、簡明に且つ猛烈に評している。九月初めにはソヴェト同盟にたいする無条件の歓喜に浸っていた彼が、十月には既に中傷している。使徒パウロからユダヤ人サウルへの拙劣な転身をした。驚く・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・国内の混乱時代に両親を失い、浮浪児となった主人公の少年サニカが、労働教育所の共同生活の訓練の間で、どのように人間としての愛を知り、技術を身につけて伸びて行くかという過程が、全巻を圧する簡明な美しさで描かれていた。そこには、ジャンの祖父、レフ・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・スターリンの文体は、その明確さ・簡明さ・溢れる生命力の美で、言語芸術の領域に新時代を画している。第二次大戦中の十月記念日に、メーデーに、スターリンがおくった激励の挨拶の、あの人間らしい暖かい具体性、肺腑にしみ入って人々にソヴェト市民たる価値・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・*月号第○頁 疑問なき簡明な文章だが実際上にはもう少し説明のいる事実だ。純粋に現在及未来の衛生問題として。 ターニャ・イワノヴナはレーニングラードのマリンスキー劇場の第一舞踊手と結婚した。美男の良人につかまって数番の初等トウダンスと・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・は当時まだつよくのこっていたブルジョア・リアリズムの煩瑣な影響から脱し、統一されたボルシェヴィキ的世界観によって輝き出す独特の簡明さ、確信――ブルジョア作家が「芸の力」によって我ものにしようと甲斐なくも焦慮する作品のこくが、正に階級的実践の・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・作者のレーニン的世界観の統一、政治的鍛練によって、自らそなわって来た独特の簡明さ、迫真力、革命的気宇の大さが、作品の深い光沢となってかがやき出そうとしている。主題の把握においても、敢然と多数者獲得の課題に応え得ている。 同志小林は「組織・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・もかわって来ないわけにゆかない。簡明で云おうとすること、内容がくっきりとうちだされていて、あいてによく通じるわかりやすさ。それが必要なばかりでなく、これからの文学のことばのなかには漱石も知らず、志賀直哉の生活と文学にもなく、「細雪」にもない・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・狂言の行中には、いつも少し魯鈍でお人よしな殿と、頓智と狡さと精力に満ちた太郎冠者と、相当やきもちの強い、時には腕力をも揮う殿の妻君とが現われて、短い、簡明な筋の運びのうちに腹からの笑いを誘い出している。 武家貴族の生活が婦人を愉しく又苦・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫