・・・もっとも敵の地雷火は凄まじい火柱をあげるが早いか、味かたの少将を粉微塵にした。が、敵軍も大佐を失い、その次にはまた保吉の恐れる唯一の工兵を失ってしまった。これを見た味かたは今までよりも一層猛烈に攻撃をつづけた。――と云うのは勿論事実ではない・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・もっと激しく、ありったけの瓶が一度に地面に散らばり出て、ある限りが粉微塵になりでもすれば…… はたしてそれが来た。前扉はぱくんと大きく口を開いてしまった。同時に、三段の棚が、吐き出された舌のように、長々と地面にずり出した。そしてそれらの・・・ 有島武郎 「卑怯者」
・・・見事おれの手だまに取って、こん粉微塵に打ち砕いてくれるぞ。見込んだものを人に取らして、指をくわえているおれではない。狙らった上は決して免がさぬ。光代との関係は確かに見た。わが物顔のその面を蹂み躙るのは朝飯前だ。おれを知らんか。おれを知らんか・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・割れたる面は再びぴちぴちと氷を砕くが如く粉微塵になって室の中に飛ぶ。七巻八巻織りかけたる布帛はふつふつと切れて風なきに鉄片と共に舞い上る。紅の糸、緑の糸、黄の糸、紫の糸はほつれ、千切れ、解け、もつれて土蜘蛛の張る網の如くにシャロットの女の顔・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・この恋が成功さえすれば天地が粉微塵コッパイになっても少しも驚きはせぬ。もしまたこの恋がどうしても成功せぬときまった暁には磔に逢うが火あぶりに逢うが少しも悔む処はない。固より悔む処はないのであるけれどしかし死という事が恐ろしくあるまいか、かよ・・・ 正岡子規 「恋」
・・・を粉微塵に吹飛ばされて見て、始めて他人と自分とをその者本来の姿で見る事を幾分か習い始めたと云えるのである。 こう云う自分の心持の変化は、今まで矢張り何かで被われていた女性全般に対する心の持方を何時とは無く変えさせて来た。 現在では女・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
出典:青空文庫