・・・この大切な品がどんな手落で、遺失粗相などがあるまいものでもないという迷信を生じた。先ず先生から受取った原稿は、これを大事と肌につけて例のポストにやって行く。我が手は原稿と共にポストの投入口に奥深く挿入せられてしばらくは原稿を離れ得ない。やが・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・おいくさん、お前粗相をしやしないかい。七左 (呵々はッはッはッ。慌てまい。うろたえまい。騒ぐまい。信濃国東筑摩郡松本中が粗相をしても、腹を立てる私ではない。証拠を見せよう。それこれじゃ、(萌黄――お銚子は提げて持って行くわさ。村越 ・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・私は驚いて「どうもとんだ粗相をしました」と云うと、主人は、「いや、どう致しまして、一体この置き所も悪いものですから」と云った。そして、「このつれならまだいくらでもありますから、どうぞいいのを御持ち下さい」という。 一体私がこの壷を買う事・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
出典:青空文庫