・・・お神さんは私を引入れましたが、内に入りますと貴方どうでございましょう、土間の上に台があって、荒筵を敷いてあるんでございますよ、そこらは一面に煤ぼって、土間も黴が生えるように、じくじくして、隅の方に、お神さんと同じ色の真蒼な灯が、ちょろちょろ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・片側は滑かであるが、裏側はずいぶんざらざらして荒筵のような縞目が目立って見える。しかし日光に透かして見るとこれとはまた独立な、もっと細かく規則正しい簾のような縞目が見える。この縞はたぶん紙を漉く時に繊維を沈着させる簾の痕跡であろうが、裏側の・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・柱は竹を堀り立てたばかり、屋根は骨ばかりの障子に荒筵をかけたままで、人の住むとも思われぬが、内を覗いてみると、船板を並べた上に、破れ蒲団がころがっている。蒲団と云えば蒲団、古綿の板と云えばそうである。小屋のすぐ前に屋台店のようなものが出来て・・・ 寺田寅彦 「嵐」
出典:青空文庫