・・・霊性というものも粗鉱や、粗絹のようなもので、磨いたり、練ったりしなくては本当の光沢は出ないものである。仏教では一切衆生悉有仏性といって、人間でも、畜生でも、生きているものはみな仏になるべき性種をそなえているという。ただそれを磨き出さなければ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
一 くすれたような鉱山の長屋が、C川の両側に、細長く、幾すじも這っている。 製煉所の銅煙は、禿げ山の山腹の太短かい二本の煙突から低く街に這いおりて、靄のように長屋を襲った。いがらっぽいその煙にあうと、・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・おかしき男かなと思いてさまざまの事を問うに、極めて石を愛ずる癖ある叟にて、それよりそれと話の次に、平賀源内の明和年中大滝村の奥の方なる中津川にて鉱を採りし事なども語り出でたり。鳩渓の秩父にて山を開かんと企てしことは早くよりその伝説ありて、今・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・工場の機械にまきこまれて死ぬる。鉱坑のガスで窒息して死ぬる。私欲のために謀殺される。窮迫のために自殺する。今の人間の命の火は、油がつきて滅するのでなくて、みな烈風に吹き消されるのである。わたくしは、いま手もとに統計をもたないけれど、病死以外・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・から誘致した病気の為めに、其天寿の半にだも達せずして紛々として死に失せるのである、独り病気のみでない、彼等は餓死もする、凍死もする、溺死する、焚死する、震死する、轢死する、工場の器機に捲込れて死ぬる、鉱坑の瓦斯で窒息して死ぬる、私慾の為めに・・・ 幸徳秋水 「死生」
昔ギリシアの哲学者ルクレチウスは窓からさしこむ日光の中に踊る塵埃を見て、分子説の元祖になったと伝えられている。このような微塵は通例有機質の繊維や鉱物質の土砂の破片から成り立っている。比重は無論空気に比べて著しく大きいが、そ・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・例えば鉱のように種々な異分子を含んだ自然物でなくって純金と云ったように精錬した忠臣なり孝子なりを意味しております。かく完全な模型を標榜して、それに達し得る念力をもって修養の功を積むべく余儀なくされたのが昔の徳育であります。もう少し細かく申す・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・曙覧が実地に写したる歌の中に飛騨の鉱山を詠めるがごときはことに珍しきものなり。日の光いたらぬ山の洞のうちに火ともし入てかね掘出す赤裸の男子むれゐて鉱のまろがり砕く鎚うち揮てさひづるや碓たててきらきらとひかる塊つきて粉にする・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 道の左には地図にある通りの細い沖積地が青金の鉱山を通って来る川に沿って青くけむった稲を載せて北へ続いていた。山の上では薄明穹の頂が水色に光った。俄かに斉田が立ちどまった。道の左側が細い谷になっていてその下で誰かが屈んで何かしていた。見・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
よく晴れて前の谷川もいつもとまるでちがって楽しくごろごろ鳴った。盆の十六日なので鉱山も休んで給料は呉れ畑の仕事も一段落ついて今日こそ一日そこらの木やとうもろこしを吹く風も家のなかの煙に射す青い光の棒もみんな二人のものだった・・・ 宮沢賢治 「十六日」
出典:青空文庫