・・・うに量的に進歩した物理化学界で、昔のような質的発見はもはやあり得まいという人があるとすれば、それはあまり人間を高く買い過ぎ、自然を安く踏み過ぎる人であり、そうしてあまりに歴史的事実を無視する人であり、約言すれば科学自身の精神を無視する人でな・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 以上述べたところを約言してみると、連句は音楽と同じく「律動」と「旋律」と「和声」をその存立要件として成立するものである。そうして音楽の場合の一つ一つの音に相応するものがいろいろの物象や感覚の心像、またそれに付帯し纏綿する情緒である。こ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・春でもない、晩春の相である、丁度桜花が爛と咲き乱れて、稍々散り初めようという所だ、遠く霞んだ中空に、美しくおぼろおぼろとした春の月が照っている晩を、両側に桜の植えられた細い長い路を辿るような趣がある。約言すれば、艶麗の中にどっか寂しい所のあ・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・これを更に約言するときは斯うなります。現象は総て神の摂理中なるが故に善なりと、まあよろしいようでありますが又ごくあぶないのであります。ここの善というのは神より見たる善であります。絶対善であります。それをもし私たちから見た善と解釈するとき始め・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 征服しなければ自己を守り得ないとすれば、私は、原因となる対象を全部否定し、生活圏外に放擲してしまわなければならない。約言すれば、自箇の天性があれほどいつくしみ信じ、暖く胸に抱いて来た愛の、対人的可能を、絶対に否定し尽さなければならない・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫