・・・ 今、単に経済上より観察を下しまして、この小国のけっして侮るべからざる国であることがわかります。この国の面積と人口とはとてもわが日本国に及びませんが、しかし富の程度にいたりましてははるかに日本以上であります。その一例を挙げますれば日本国・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
最近は、政治的に行きつまり、経済的にも、また行きつまっている様な気がする。その反映は文芸の上にも現われていないことはない。だが、この時にこそ、文芸は、展開せられるのでもある。我々は、常に、思想の自由を有している。空想し、想像することの・・・ 小川未明 「自由なる空想」
・・・義理人情の世界、経済の世界が大阪ではない。元禄の大坂人がどんな風に世の中を考え、どんな風に生きたかを考えれば判ることである。まして、東京が考えているエンタツ、アチャコだけが大阪ではない。通俗作家が大阪を歪めてしまったのである。 してみれ・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・ 彼はすべての芸術も、芸術家も、現代にあっては根本の経済という観念の自覚の上に立たない以上、亡びるという持論から、私に長い説法をした。「君は何か芸術家というものを、何か特種な、経済なんてものの支配を超越した特別な世界のもののように考・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・というのが夫婦愛で、これは長い年月を経済生活、社会生活の線にそうて、助け合ってきた歴史から生まれたものである。 そして不思議なことには、この人は子どもも可愛がるが、生活欲望も非常に強い。妻らしく、母らしい婦人が必ずしも生活欲望が弱いとし・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・日本軍が撤退すると、サヴエート同盟の経済力は、シベリアにおいても復旧した。社会主義的建設が行われだした。シベリアで金儲けをしようとする人間は駆逐された。それでも深沢は、どこまでもシベリアに喰いさがろうとした、黒竜江のこちら側へ渡った。火酒の・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・大内は西国の大大名で有った上、四国中国九州諸方から京洛への要衝の地であったから、政治上交通上経済上に大発達を遂げて愈々殷賑を加えた。大内は西方智識の所有者であったから歟、堺の住民が外国と交商して其智識を移し得たからである歟、我邦の城は孑然と・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・あの母さんのように、困った夫の前へ、ありったけの金を取り出すような場合は別としても、もっと女の生活が経済的にも保障されていたなら、と今になって私も思い当たることがいろいろある。「娘のしたくは、こんなことでいいのか。」 私も、そこへ気・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・帝大の経済科を中途退学して、そうして、何もしない。月々、田舎から充分の仕送りがあるので、四畳半と六畳と八畳の、ひとり者としては、稍や大きすぎるくらいの家を借りて、毎晩さわいでいる。もっとも、騒ぐのは、男爵自身ではなかった。訪問客が多いのであ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・しかし家庭の経済は楽でなかったから、ともかくも自分で働いて食わなければならないので、シャフハウゼンやベルンで私教師を勤めながら静かに深く物理学を勉強した。かなりに貧しい暮しをしていたらしい。その時分の研学の仲間に南ロシアから来ている女学生が・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫