・・・後日再び奥州から大軍の将として上洛する途上この宿に立寄り懇ろに母の霊を祭る、という物語を絵巻物十二巻に仕立てたものである。 絵巻物というものは現代の映画の先祖と見ることが出来る。これについては前にも書いたことがあったが、この山中常盤双紙・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・ たとえば昔からある絵巻物というものが今の映画、しかもいわゆるモンタージュ映画の先駆のようにも見られる。またいわゆる俳諧連句と称するものが、このモンタージュの芸術を極度に進歩させたものであるとも考えられるのである。そうしてまたこのモンテ・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・丁度活動写真を見詰める子供のように、自分は休みなく変って行く時勢の絵巻物をば眼の痛なるまで見詰めていたい。明治四十四年七月 永井荷風 「銀座」
・・・そして絵巻物に見る牛車と祭礼の神輿とに似ている新形の柩車になった。わたくしは趣味の上から、いやにぴかぴかひかっている今日の柩車を甚しく悪んでいる。外見ばかりを安物で飾っている現代の建築物や、人絹の美服などとその趣を同じくしているが故である。・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・書庫には、出島和蘭屋敷の絵巻物、対支貿易に使用された信牌、航海図、きりしたんころびに関する書つけ、シーボルトの遺物、フェートン号の航海日誌、羅馬綴の日本語にラテン語を混えた独特な趣味あるミッション・プレス等々価値あるものが沢山ある。 其・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・窓際の硝子蓋の裡に天正十五年の禁教令出島和蘭屋敷の絵巻物、対支貿易に使用された信牌、航海図、切支丹ころびに関する書類、有名なフェートン号の航海日誌、ミッション・プレス等。左の硝子箱に、シーボルト着用の金モウル附礼服が一着飾ってある。小さい陶・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ くつろいだ様子をして絵巻物を見て居た光君は、はばかるようにおもはゆげに誰にともなく云うと、わきに居た髪の美くしい年まがうけとって、「エエ、そうでございます、大奥様の御妹子の御子で御両親に御分れなさってからこちらに御出になって居るん・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・私共は親しい源氏物語の光君は持っているが、彼とても、彼と交渉を持った数多い女性達の優婉さ、賢さ、風情、絵巻物風な滑稽等の生彩ある活躍にまぎれると、結局末摘花や浮舟その他の人物の立派な紹介者というだけの場合さえあるようだ。種々な作品を一般にい・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・三渓の蒐集品は文人画ばかりでなく、古い仏画や絵巻物や宋画や琳派の作品など、尤物ぞろいであったが、文人画にも大雅、蕪村、竹田、玉堂、木米などの傑れたものがたくさんあった。あれを見たら先生はさぞ喜ぶだろうと思ったのである。 私はその話を漱石・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫