・・・しかし入口からぽつぽつ出て来る人たちの評判を立聞きすると、「腰巻なんぞ締めていやがる。面白くもねえ。」というのである。小屋掛の様子からどうしてもむかし縁日に出たロクロ首の見世物も同じらしく思われたので、わたくしは入らずにしまった。このエロス・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ 佐藤が窓を締めて引っ込んでから、花房はゆっくり手を洗って診察室に這入った。 例の寝台の脚の処に、二十二三の櫛巻の女が、半襟の掛かった銘撰の半纏を着て、絹のはでな前掛を胸高に締めて、右の手を畳に衝いて、体を斜にして据わっていた。・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・町でも家は大抵戸を締めて、ひっそりしています。まあ、クリスマスにお祭らしい事はしてしまって、新年の方はお留守になっているようなわけです」と云う。「でもお上のお儀式はあるだろうね。」「それはございますそうです。拝賀が午後二時だとか云うことでし・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫