・・・個々の存在に即し、しっかりと地に繋がり、自分も我身体の重み、熱、希望を感じて、始めて、春は私共の生活に入って来るように思う。春の麗らかな日、眼を放てば、私共は先ず、一々に異う木の芽の姿、一々に違う家々の眺めに、興味深く心を牽かれずにはいられ・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・この三点は、トルストイの内的発展の過程でどういう繋がりをもったのだろうか。 例えば、こんな点についてもビリューコフは、ただ「アンナ・カレーニナの中に現れた婦人及び婦人問題に対する独自の見解が芽ぐみはじめた」とだけ云っているのである。・・・ 宮本百合子 「『トルストーイ伝』」
・・・古風なカドリールの音楽につれて、手から手へ繋がりあって、送られて、まわって、又新しい手につながれて動いてゆく、見えない仲間のカドリールがあるという陽気な気がした。「ここは、まるでノアの箱舟ね」 ひろ子が、笑って云った。「何でも一・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・現実社会の下で置かれている一定の関係を通じて与えられた多種多様な社会的現実に対して客観的な評価を与えるばかりではなく、その主題が芸術化されてゆく創作の過程で、作品の対象と創作方法との間にあるべき必然の繋がりをも、吟味してゆく精神でなければな・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・それだけ、今ごろ標札のかわりに色紙を欲しがる青年の戯れに実感がこもり、梶には、他人事ではない直接的な繋がりを身に感じた。当時の悩みの種が意外なところへ落ちていて、いつの間にかそこで葉を伸ばしていたのである。彼は一日も早く栖方に会ってみたくな・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫