・・・ドモ又の命が買いもどせるくらいの罰金を出させなけりゃ、俺たちの腹の虫は納まらないや。瀬古 そうしてそれが結局堂脇や九頭竜を教育することになるんだからなあ。いくら高く買わせたってドモ又の画は高くはないよ。こんどあいつらは生まれてはじめて・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・すると、浜子はちょっと南へと言って、そして、あんた五十銭罰金だっせエと裸かのことを言いました。市場の中は狭くて暗かったが、そこを抜けて西へ折れると、道はぱっとひらけて、明るく、二つ井戸。オットセイの黒ずんだ肉を売る店があったり、猿の頭蓋骨や・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 丹造はその後転々奉公先をかえたが、どこでも尻が温らず、二十歳の時には何とかの罪で罰金七円、二十一の時には罰金十円をくらった。 それで何となく大阪に住みにくく、丹造は東京へ走った。職を求めて東京市中を三日さまよう内に、僅かな所持金も・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・あまり改った風なぞして鉄道員に発見されて罰金でも取られたら、それこそたいへんだからね」 私たちはまだこんな冗談など言い合ったりしていたが、やがて時間が来て青森を発車すると同時に、私たちの気持もだんだん引緊ってきた。一昨日は落合の火葬場の・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・饂飩屋も、お湯屋も、煙草屋も、商売の一寸した手落ちにケチをつけられて罰金沙汰にせられるのが怖い。そこで、スパイに借られ、食われたものは、代金請求もよくせずに、黙って食われ損をしているのだ。「山の根へ薪を積むとて行ってるんだよ。」宗保が気・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・「届けずに、こいつを建てたのが、いけねえんだってよオ。罰金を取るちゅうだぞ。」「何ぬかしヤがんだい! 便所なしに、一体、野グソばっかし、たれられるかい!」 米吉は、三反歩の小作と、笊あみの副業で食っている。――そこは森林が多かっ・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・ふとしてくび輪をつけわすれたりしていたために、野犬としてつかまえていかれた場合には、警察へいって罰金をおさめると、はこから出してわたしてくれるのでした。町の人たちの中には、このとりしまり法のために、たとえ野犬でも、いつも来なれていた犬がどん・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・それから法廷を侮辱した科によって、同時に罰金二十マルクに処せられた。「被告の所有者たる襟は没収する限りでないから、一応被告に下げ渡します」と、裁判長が云った。「あの差押えた品を渡せ」と云うや否や、押丁はおれに例の紙包みを持って来て渡した・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・球がそれて土手の斜面に落ちると罰金だそうである。 河畔の蘆の中でしきりに葭切が鳴いている。草原には矮小な夾竹桃がただ一輪真赤に咲いている。綺麗に刈りならした芝生の中に立って正に打出されようとする白い球を凝視していると芝生全体が自分をのせ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・それと同時に、いつかスイスで某将軍の銅像を真赤に塗りつぶして捕えられ罰金を課せられた英国の学生の話を想い出した。……しかしこれは帝展とは何の関係もない事である。 これで筆を擱こうと思ってふと縁先の硝子障子から外を見ると、少しもう色付きか・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫